コロナ禍と強靭な社会
新型コロナウイルスは世界中に波状攻撃をかけ、甚大な被害を及ぼしています。わが国では、1月から一部地域に宣言された緊急事態が3月末で解除されましたが、東京五輪パラリンピックを控え、感染者数が再拡大して医療が逼迫することが懸念されます。ポーランドでは、3月になって一日当たりの新規感染者が3万人近くに達する第3波に見舞われています。感染者の8割が英国型変異種と言われ、ロックダウン(都市封鎖)が再び行われています。これら両国のみならず世界中が新型コロナ蔓延の渦中にあって、不安を抱える日々が続いています。
このような中、ワクチンの登場は明るい材料です。防疫の切り札として未曽有のスピードで開発されたワクチンは、急ピッチで接種が進められています。ポーランドでは既に5百万人以上が接種を了していますし、日本でも医療従事者からの接種が始まっています。安定的で迅速なワクチン供給と配布が進む国では期待された結果が出てきています。
社会生活や経済活動の中では、マスクや手洗いに加えて、在宅勤務(テレワーク)が普及しました。遠隔での交渉や授業・セミナーも一層広く実施されています。 ICTが大いに活躍する分野です。密集を避ける行動様式が求められ、大人数の密な会食の機会はめっきり減りました。日本では「オンライン飲み会」の人気も定着した感があります。このような非接触型の生活スタイルが新たな日常となりつつあります。
米国におけるアジア系住民に対する差別・ヘイトクライム、欧州におけるワクチン争奪戦など、社会の分断や対立も顕在化しました。しかし、良識と協力によりこうした問題は克服されつつあるように見えます。心配された途上国へのワクチン供給についても、これを支援する国際的仕組みとして「COVAXファシリティ」が創設され、途上国へのワクチン提供が始まっていることには勇気づけられます。
コロナ禍は私たちの社会の旧弊や弱点を浮き彫りにしました。人種差別、偏狭なナショナリズム、岩盤規制、デジタル化の遅れなどがその例です。私たちはウィルスと対峙するとともに、従来の悪弊を改革し、弱点を克服しなければなりません。 未だ道半ばですが、これが成功すれば、コロナ禍に打ち勝つことができるだけでなく、将来の新たな危機にも対処できる強靭な社会の基礎を造ることにつながるでしょう。 (令和3年3月25日記)
日本ポーランド文化交流協会理事長
山中 誠
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