シベリア孤児来日100周年に想う〜これまでの100年からこれからの100年へ〜
日本・ポーランド文化交流協会の皆様はじめまして。社会福祉法人福田会理事長の太田孝昭です。福田会は東京の渋谷区広尾にある社会福祉法人で、児童養護施設をはじめ複数の福祉施設を運営しています。
さて、今年2020年は福田会にとってとても大切な年です。日本でシベリア孤児救済事業が行われ、ポーランドの子どもたちが来日してからちょうど100年の節目の年となるのです。この事業に福田会は大きな役割を果たしましたが、その事実が明らかとなったのは今から10年ほど前のことでした。
2010年のある日、ヤドヴィガ・ロドヴィッチ=チェホフスカ元駐日ポーランド大使が広尾をジョギング中に偶然『福田会』のプレートを見つけ、「この福田会は、あの“ふくでんかい”ですか?」と言って訪ねてきました。質問を受けた当時の職員は何のことか全く分かりませんでした。大使はポーランドのシベリア孤児が東京で滞在したのが福田会であり、その場所が現存していることに興奮しながら説明してくださいました。この偶然の出来事から福田会とポーランドとの交流が始まり、埋もれていたシベリア孤児の記憶がよみがえることとなったのです。
当時、革命や内戦などの混乱の中で、流民となった多くのポーランド人がシベリアへと流れ込んでいました。こうした状況の中、「せめて子どもたちだけでも救いたい」との思いからポーランド救済委員会が設立、様々な国へと働きかける中で日本政府はたった17日で救済を受諾し、1920年7月22日、第一陣のポーランドの子どもたちがシベリアから敦賀港へと渡り、日本の地に降り立ちました。
翌1921年まで5回に分かれてやって来た子どもたちは敦賀から東京へと移り、それぞれ100日余りを福田会(当時の福田会育児院)で生活しました。子どもたちは、日本赤十字社の看護婦による献身的な看護のほか、日本の童謡や日本文化についても教わりました。福田会での子どもたちの生活の様子は、新聞で毎日取り上げられ、全国から様々な寄附が届けられたといいます。こうして福田会で過ごした子どもたちは健康を回復し、無事に祖国ポーランドへと帰還しました。
1922年に行われた第二次救済事業では、388名の子どもたちが来日し、大阪市立公民病院(現在の大阪市立病院)の看護婦寄宿舎に滞在しました。大阪でも子どもたちは歓迎を受け、映画の上映会や大阪城の見学、さらには天王寺動物園で象の背中に乗せてもらうなどの体験をし、神戸港から帰国しました。このことから、孤児救済事業は当時の日本にとって大きなプロジェクトであり、国民が一丸となってポーランドの子どもたちを救おうという気持ちに満ち溢れていたのではないかと思います。
福田会では、今もなおポーランドとの友好的な関係が続いています。2012年4月には、アンナ・コモロフスカ大統領令夫人が福田会を訪問され、「シベリア孤児救済完了90年」の記念プレートを寄贈いただきました。2015年2月、同大統領令夫人が2度目の来日をされた際には、福田会より前回の訪問の返礼として、安倍昭恵後援会会長とともに桜の記念植樹を行わせていただきました。2019 年 10 月には、アガタ・コルンハウゼル=ドゥダ大統領令夫人が、日本・ポーランド国交樹立100周年および翌年のシベリア孤児来日100周年を記念して福田会を訪問されました。
また、ポーランドのワルシャワにて開催されている「児童養護施設の子どもたちのためのサッカーワールドカップ」に、2016年から毎年ご招待をいただいています。普段とは違う環境の中で子どもたちが未来への夢や目標を見つけられる、貴重な機会になっています。
2019年9月30日には、ポーランドにて「FUKUDENKAI −DOM NADZIEI 福田会―希望の家」というタイトルの切手とポストカード3種が発行されました。日本とポーランドの国交樹立100周年を記念して現地の美術大学が主催したコンクールでデザインが選ばれました。切手には、日の昇る国=希望を表すシンボルとして日本国旗と、幸せを運ぶ鳥としてポーランドで有名なコウノトリが描かれています。福田会の名前が用いられたということは、ポーランドの国でシベリア孤児についての歴史が語り継がれていることを示唆しており、両国の関係において非常に喜ばしいことであります。切手のデザインが選ばれたコンクールの全作品の展覧会を、今年11月3日に人道の港敦賀ムゼウムでの開催を皮切りに、来年度にかけて国内およびポーランドにて実施するよう計画しています。
さらに、今年、福田会では、新型コロナウイルスの影響で職を失ったり、帰国が難しくなってしまった留学生やワーキングホリデーで来日した19名のポーランド人に、一般社団法人日本ポーランド青少年協会の協力のもと、特別寄付による支援を行いました。また、2021年には、シベリア孤児来日 100 年を記念して、ポーランド・日本両国で記念式典を実施いたします。ポーランドでは孤児の子孫の方々をお招きしたシンポジウムを、福田会では日本とポーランドの友好のシンボルとして、児童養護施設の壁面に当時のシベリア孤児の集合写真の陶板レリーフを設置する式典を行う予定です。
私たちはシベリア孤児の歴史を日本とポーランドの若い世代の方々に伝えていく役割を担い、今後の100年もさらに両国の絆が続いていくことを願っています。
社会福祉法人福田会
理事長 太田孝昭
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