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ポーランドの伝説的映画監督アンジェイ・ワイダ(1926〜2016)の展覧会が国立映画アーカイブ(東京京橋)で開催されている。「灰とダイヤモンド」「鉄の男」「カティンの森」などで国際的に著名な巨匠について、その生い立ち、監督像、日本との親密な関係などを偲ぶことのできる数々の貴重な資料が映像とともに展示されている。ワイダ監督をより多角的に理解する好個の機会となっている。かつて尊敬する監督との交流に恵まれた筆者としては、感慨がひとしお募る展覧会であった。
ワイダ監督の傑出した業績は、ポーランドの歴史と運命に共鳴するところから生まれてきたと言えるだろう。若くしてナチス・ドイツやソ連による占領・支配を経験し、「連帯」運動を経て1989年の民主化へと繋がっていくポーランドの激動の歴史を生きたワイダ監督である。巨匠の60年余にわたる映画作家としての活動は、2000年アカデミー賞特別名誉賞の授賞理由に謳われたように「世界中の人々に歴史、民主主義、自由について芸術家としての視点を示した」ものであった。
巨匠は大の親日家であった。ワイダ監督との出会いと交流は、筆者が2011年から4年半日本国大使としてポーランドに在勤したときだった。この間ワイダ監督とクリスティーナ夫人からは温かいご厚誼をいただいた。当時既に80歳台後半と高齢ながら、創作活動に精力的に取り組まれる中、大使館行事や会食の招きにも気さくに応じていただいた。会食の際には食前酒にウイスキーをぐいと飲まれるのがお好きだった。日本食もお好きであったが、実は魚介類は苦手だった。会食での寿司は牛肉や野菜を具に用意して喜んでいただいた。
ワイダ監督のお話は映画論、芸術論、文化交流史など多岐にわたり、さながら興味の尽きない講義を受けているようであった。黒澤明監督、岩波ホール総支配人だった高野悦子さん、建築家の磯崎新さんがしばしば登場した。黒澤監督のシェークスピア解釈が極めて的確であったこと。高野さんはワイダ監督が主導して浮世絵を中心に古都クラクフに誕生した「日本美術技術博物館」(通称マンガ館)を物心両面で支えてくれたという。マンガ館の建物は磯崎さんが設計したが、美しい曲線の屋根は葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」からインスピレーションを得たものであったという。ワイダ監督が心血を注いで生み育てたマンガ館は、欧州でもトップクラスの日本文化芸術の発信拠点として定着している。今年11月にはめでたく30周年を迎え、各界要人の出席を得て盛大に記念式典が挙行された。
ワイダ監督は2016年10月に急逝された。享年90歳であった。帰朝となった筆者夫婦をワルシャワの自宅に招き送別会を催してくれたのがその年の1月であったので、わずか9か月後に亡くなったことになる。訃報を受け取ったときは大きなショックと喪失感で打ちのめされた。今回の展覧会では、ワイダ監督の偉大な功績や日本文化に対する愛情に改めて触れるとともに、個人的に受けたご厚情に想いを馳せる感慨深いひと時となった。
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